訪日外国人旅行者が増えるなか、ホテルや旅館にとって「インバウンド対策」の重要性はますます高まっています。
2025年の訪日外客数は4,268万3,600人となり、年間で初めて4,200万人を突破。過去最多を更新しました。
宿泊施設でもその影響は大きく、観光庁の宿泊旅行統計によると、2025年の外国人延べ宿泊者数は1億7,992万人泊となり、前年から9.4%増加しています。
一方で、「英語が話せるスタッフがいない」「何から始めればいいかわからない」「外国人向けに情報発信しても届かない」といった悩みを抱えている宿泊施設も少なくありません。
しかし、インバウンド対策はすべてを一度に変える必要はありません。
この記事では、ホテル・旅館などの宿泊施設が取り組みたいインバウンド対策を、接客・情報提供・ニーズ把握・集客・業務効率化という観点からわかりやすく解説します。
ホテル・旅館にインバウンド対策が必要な理由
インバウンド対策というと、「英語のWebサイトを作る」「外国語を話せるスタッフを採用する」といった施策をイメージするかもしれません。
もちろん多言語対応は重要です。しかし、本来のインバウンド対策はそれだけではありません。
外国人旅行者に自施設を知ってもらい、予約してもらい、滞在中に快適に過ごしてもらい、さらに満足度や口コミ、再訪につなげる。その一連の体験を整えることが重要です。
観光庁が2026年に公表した訪日外国人旅行者への調査では、旅行中に困ったこととして「施設等のスタッフとのコミュニケーション」15.4%、「多言語表示の少なさ・わかりにくさ」10.9%、「クレジット/デビットカードの利用」10.7%などが挙げられています。
インバウンド対策は「外国語に対応すること」だけではありません。旅行者に知ってもらうところから、予約、滞在、満足度向上、口コミや再訪まで、一連の体験を考えることが重要です。
対策① 多言語で情報を届けられるようにする
最初に取り組みたいのが多言語対応です。
ただし、施設内のすべてを何十言語にも翻訳する必要はありません。まずは外国人宿泊客から質問されやすい情報を整理してみましょう。
- チェックイン・チェックアウト時間
- Wi-Fiの利用方法
- 朝食の時間・場所
- 大浴場や共用設備の利用方法
- 荷物預かり
- アメニティ
- 館内ルール
- 周辺の飲食店や観光スポット
- 最寄り駅や空港までのアクセス
- 緊急時の案内
こうした情報をWebサイトや館内案内、FAQなどで多言語化するだけでも、宿泊客自身で解決できることが増えます。
スタッフへの問い合わせを減らすという意味でも効果があります。
対策② 外国人宿泊客とのコミュニケーションを改善する

多言語表示を増やしても、すべての質問を事前に想定することはできません。そこで重要になるのが、滞在中のコミュニケーションです。
外国語を話せるスタッフを常時配置できれば理想的ですが、人材確保やコストの問題から難しい施設もあります。
そこで現在は、翻訳ツール、多言語FAQ、チャット、AIチャット、QRコードによる案内などを組み合わせる方法もあります。
すべてを人が対応するのではなく、定型的な質問はデジタルで解決し、人にしかできない接客にスタッフの時間を使うという考え方も有効です。
対策③ 外国人宿泊客が「何を求めているのか」を知る
意外と見落とされやすいのが、外国人宿泊客のニーズを知ることです。
- 朝食は満足してもらえたか
- 館内案内はわかりやすかったか
- 滞在中に何に困ったか
- どのサービスが良かったか
- どんなサービスがあれば嬉しいか
国内客と外国人客では、文化や旅行スタイル、期待するサービスが異なる場合があります。
そのため、日本人スタッフだけで「外国人にはこれが喜ばれるだろう」と考えるより、実際の外国人旅行者の声を集めることが重要です。
アンケートやレビューなどを活用して「仮説 → 実際の声 → 改善」というサイクルを作ることで、より効果的なインバウンド対応につながります。
対策④ 海外の旅行者に施設を知ってもらう
受け入れ環境を整えても、海外の旅行者に施設を知ってもらえなければ予約にはつながりません。そのため、インバウンド対策では「集客」も重要です。

- OTA
- Googleマップ
- 自社Webサイト
- TikTok
- YouTube
- 海外向けSNS
- 海外メディア
特にSNSでは、単に施設名や客室を投稿するだけではなく、「どんな体験ができるのか」「周辺に何があるのか」「日本ならではの何を楽しめるのか」といった旅行者目線の情報を発信することが重要です。
対策⑤ 口コミ・レビューをインバウンド対策に活かす
外国人旅行者が宿泊先を選ぶ際、口コミやレビューは重要な判断材料になります。
そのため、GoogleマップやOTAなどに投稿されたレビューを定期的に確認しましょう。
重要なのは評価点だけではありません。レビューには、外国人から評価されているポイント、わかりにくかった部分、接客への評価、設備への不満、周辺環境への評価など、改善につながる情報が含まれています。
外国語のレビューも翻訳ツールやAIを活用すれば確認できます。
レビューを単なる「評価される場所」として見るのではなく、顧客ニーズを知るためのデータとして活用する視点も大切です。
対策⑥ AI・DXでスタッフの負担を減らす

インバウンド対応を強化すると、スタッフの仕事が増える可能性があります。そこで同時に考えたいのが業務効率化です。
観光庁は観光DXについて、旅行者の利便性向上だけでなく、観光産業の生産性向上や観光地経営の高度化につなげる取り組みとして推進しています。
- よくある質問への自動回答
- 多言語対応
- 問い合わせメールへの返信支援
- 予約・顧客情報の管理
- アンケート分析
- 口コミ分析
- データ分析
こうした業務は、ITやAIを活用できる領域です。
観光庁も宿泊施設向けにIT活用に関する情報や事例を公開するなど、宿泊業におけるデジタル技術の活用を推進しています。
AIを導入すること自体を目的にしないことも重要です。宿泊客の利便性を高めながら、スタッフの負担も減らせる業務から取り入れていきましょう。
対策⑦ 一度で完璧を目指さず、小さく始める
インバウンド対策というと、大規模なシステム導入や施設全体の改修を想像するかもしれません。しかし、最初からすべてを変える必要はありません。
STEP 1:外国人宿泊客からよく聞かれる質問を整理する
まずは、日々の接客でよく聞かれる質問を10個程度書き出してみましょう。
STEP 2:主要な案内を多言語で確認できるようにする
よくある質問への回答や館内案内など、優先度の高い情報から多言語化します。
STEP 3:外国人宿泊客の声を集める
アンケートやレビューなどを通じて、実際に困ったことや良かったことを確認します。
STEP 4:集めた情報から改善する
繰り返し挙がる課題や要望から優先順位をつけ、施設運営や案内方法を改善します。
STEP 5:改善した魅力を発信する
改善したサービスや外国人旅行者から評価されているポイントを、WebサイトやSNSなどを通じて発信します。
インバウンド対策は「接客・理解・集客」を循環させる
ここまで紹介した施策は、それぞれ独立しているように見えます。しかし、本来はつながっています。
- 外国人旅行者に知ってもらう
- 宿泊してもらう
- 快適に過ごしてもらう
- 旅行者の声やデータを集める
- サービスを改善する
- 改善した魅力を再び発信する
この循環を作ることが、継続的なインバウンド対応につながります。
多言語化だけ、SNSだけ、AIだけで考えるのではなく、「接客・理解・集客」を一つの流れとして考えることがポイントです。