外国人宿泊客へのサービスを改善したいと考えても、「実際に何を求められているのかわからない」と感じるホテル・旅館は少なくありません。
多言語対応を増やした方がよいのか、館内設備を改善するべきなのか、周辺観光情報を充実させるべきなのか。施設側の想像だけで施策を決めると、宿泊客が本当に困っていることとズレてしまう場合があります。
そこで重要になるのが、アンケート・口コミ・問い合わせ・予約情報・Web上の行動などから、外国人宿泊客のニーズを継続的に把握することです。
この記事では、ホテル・旅館が外国人宿泊客のニーズを知るための具体的な方法と、集めた情報を接客・設備・多言語対応・集客改善につなげる考え方を解説します。
外国人宿泊客のニーズを知ることが重要な理由
外国人宿泊客と一括りにしても、国・地域、年齢、旅行目的、同行者、宿泊日数などによって求めるものは大きく異なります。
例えば、初めて日本を訪れる旅行者と何度も訪日している旅行者では、必要とする案内情報が違う可能性があります。家族旅行、カップル、一人旅、ビジネス利用でも、重視する設備やサービスは変わります。
そのため、「外国人には英語対応を増やせばよい」といった一律の考え方ではなく、自施設を実際に利用している宿泊客の声や行動を見ることが重要です。
大切なのは「外国人旅行者一般のニーズ」と「自施設を利用している外国人宿泊客のニーズ」を分けて考えることです。公的データで全体傾向を把握しながら、自施設のデータで具体的な改善点を探します。
外国人宿泊客のニーズを知る6つの方法
外国人宿泊客のニーズは、特別な大規模調査を実施しなくても、日々のホテル運営の中から集めることができます。
1. 宿泊後アンケートを実施する
最も直接的なのが、実際に宿泊した利用者へアンケートを行う方法です。
チェックアウト後のメールやQRコードなどを使い、スマートフォンから短時間で回答できるようにすると参加してもらいやすくなります。

例えば、次のような内容を確認できます。
- 予約前に知りたかった情報
- チェックインで困ったこと
- 館内で分かりにくかった案内
- スタッフとのコミュニケーション
- 客室・設備への満足度
- 周辺観光や交通で欲しかった情報
- 改善してほしい点
- 再び宿泊したいか
選択式だけでなく、「滞在中に困ったことがあれば教えてください」といった自由記述を少し入れると、施設側が想定していなかった課題が見つかることがあります。
アンケート項目を増やしすぎると回答率が下がりやすくなります。まずは5〜10問程度など、短時間で回答できる内容から始めると運用しやすくなります。
2. GoogleやOTAの口コミを分析する
Googleマップや宿泊予約サイトに投稿される口コミには、宿泊客が実際に感じた満足点や不満が数多く含まれています。
評価点だけを見るのではなく、文章の中で繰り返し登場する内容を確認することが重要です。

例えば「スタッフが親切だった」という声が多ければ接客が強みと考えられます。一方、「駅からの道が分かりにくい」「英語の案内が少ない」「朝食の説明が分からなかった」といった意見が続けば、改善すべきポイントが見えてきます。
外国語の口コミも翻訳ツールやAIを使えば確認しやすくなっています。
3. 問い合わせ内容を記録する
メール、電話、Webチャット、フロントで受ける質問も重要なニーズデータです。
同じ質問が何度も発生している場合、それは「宿泊客が知りたいのに、現在の案内では十分伝わっていない情報」である可能性があります。
例えば、次のような質問が多ければ改善のヒントになります。
- 駅からホテルまでどう行けばよいか
- チェックイン前に荷物を預けられるか
- 朝食の時間や場所
- 空港への移動方法
- 温泉や大浴場の利用方法
- 近くで食事できる場所
- アレルギーや食事制限への対応
問い合わせ履歴を蓄積すれば、そのままFAQの改善やAIチャットボットの回答データにも活用できます。
4. 予約データを見る
予約データからも、外国人宿泊客の傾向を把握できます。
国・地域、宿泊日数、予約時期、利用プラン、客室タイプ、人数などを確認することで、どのような旅行者が自施設を利用しているのかが見えてきます。
例えば長期滞在者が多い施設であれば、ランドリー、ワークスペース、周辺スーパーなどの情報への需要が高い可能性があります。
5. Webサイト上の行動を見る
公式Webサイトのアクセスデータも、宿泊客の関心を知る材料になります。
アクセス解析を使えば、どのページがよく閲覧されているか、どのページから予約ページへ移動しているかなどを確認できます。

特に外国語ページがある場合は、言語ごとの閲覧傾向を確認すると、旅行者がどの情報を重視しているかを推測できます。
ただし、アクセス数だけで「なぜ閲覧されたのか」までは分かりません。アンケートや問い合わせ内容と組み合わせて見ることが大切です。
6. スタッフから現場の声を集める
フロントやレストランなどで直接宿泊客と接しているスタッフは、データには残りにくいニーズを知っています。
「最近外国人のお客様から何をよく聞かれるか」「説明に時間がかかることは何か」「困っている様子をよく見る場面はあるか」といった内容を定期的に共有すると、改善のヒントになります。
アンケート・口コミ・行動データは役割が違う
ニーズを正確に把握するには、一つの情報だけを見るのではなく、複数のデータを組み合わせることが重要です。
アンケートでは「本人がどう感じたか」を直接確認できます。
口コミでは「特に印象に残った満足・不満」が見つかります。
問い合わせ履歴では「何が分からなかったか」が分かります。
アクセスや予約などの行動データでは「実際に何を見たか・何を選んだか」を確認できます。
「アンケートでは満足しているのに、同じ問い合わせが何度も発生している」といったこともあります。一つの指標だけで判断せず、複数の情報を重ねて見ることで実際の課題を把握しやすくなります。
外国人旅行者全体のデータも参考にする
自施設のデータだけでなく、観光庁やJNTOなどが公開している訪日外国人旅行者の調査も参考になります。
観光庁が2026年に公表した「訪日外国人旅行者の受入環境に関する調査」では、旅行中に困ったこととして「施設等のスタッフとのコミュニケーション」が15.4%、「多言語表示の少なさ・わかりにくさ」が10.9%となっています。
こうしたデータを見ると、多言語表示だけでなく、実際のコミュニケーションまで含めた対応が重要であることが分かります。
ただし、全国の訪日外国人旅行者全体の傾向と、自施設の宿泊客のニーズが完全に一致するとは限りません。
公的データは大きな傾向を知るために使い、自施設の改善は自社データをもとに判断するのが基本です。
集めたデータをホテル改善につなげる方法
ニーズを集めるだけでは、サービス改善にはつながりません。
重要なのは、繰り返し出てくる課題を見つけ、具体的な改善へ変えることです。
問い合わせが多い情報は事前に案内する
同じ質問が多ければ、公式Webサイト、FAQ、宿泊前メール、館内案内などへ情報を追加します。
質問されてから回答するだけでなく、「質問しなくても分かる状態」を作ることで宿泊客の負担もスタッフの負担も減らせます。
口コミで評価されている強みを伸ばす
ニーズ分析は不満を探すためだけのものではありません。
「スタッフが親切」「朝食が良かった」「立地が便利」など、繰り返し評価されているポイントは施設の強みです。
公式サイトや予約ページでその魅力を分かりやすく伝えることで、集客にも活用できます。
国・地域ごとの違いを見る
十分なデータが集まったら、国・地域別の傾向を見ることもできます。
ただし、「この国の旅行者は必ずこう考える」と決めつけるのは避ける必要があります。
あくまで自施設の実績データとして傾向を確認し、必要な情報やサービスの優先順位を決める材料として活用しましょう。
AIを使えば大量の口コミや自由回答も分析しやすい
口コミやアンケートの自由回答が増えると、人が一件ずつ確認して分類する作業には時間がかかります。
生成AIなどを活用すれば、文章をテーマ別に分類したり、頻出する不満や要望をまとめたりする作業を支援できます。
例えば、数百件の口コミを「接客」「客室」「食事」「アクセス」「多言語対応」「設備」などへ分類し、頻出している内容を確認するといった使い方があります。
ただし、AIによる分類や要約にも誤りが生じる可能性があります。重要な改善判断を行う場合は、元の口コミや回答も確認することが大切です。
アンケートや問い合わせ履歴などに個人情報が含まれる場合は、そのまま外部AIサービスへ入力しないなど、利用するサービスの規約や情報管理方法を確認したうえで活用しましょう。
小規模ホテル・旅館ならまずここから始める
大規模な分析環境を用意しなくても、外国人宿泊客のニーズ把握は始められます。
STEP 1:外国人宿泊客から多い質問を10個集める
まずフロントスタッフやメール履歴から、頻繁に聞かれる内容を整理します。
STEP 2:最近の口コミを30〜50件読む
外国語口コミも含めて確認し、何が評価され、何に不満があるかをまとめます。
STEP 3:短い宿泊後アンケートを始める
最初は少ない設問で構いません。回答を継続的に集める仕組みを作ります。
STEP 4:月に一度まとめて確認する
問い合わせ、口コミ、アンケートを月単位で振り返り、繰り返し出ている課題を探します。
STEP 5:改善して変化を確認する
FAQや案内を変更した後に問い合わせが減ったか、口コミやアンケート評価が変化したかを確認します。
ニーズ把握は一度の調査で終わらせない
旅行者のニーズは固定されたものではありません。
訪日市場、旅行スタイル、利用するデジタルサービス、施設周辺の環境などが変われば、宿泊客が求める情報やサービスも変化します。
そのため、年に一度だけアンケートを実施するのではなく、日々の問い合わせや口コミなどを継続的に確認できる仕組みを作ることが重要です。
宿泊客の声を蓄積し、改善し、その結果をまた確認する。この循環を作ることで、自施設に合ったサービス改善を続けやすくなります。
よくある質問
Q. 外国人宿泊客へのアンケートは何語で作ればいいですか?
まず英語を用意し、自施設の宿泊実績に応じて中国語や韓国語などを追加する方法があります。すべての言語を最初から用意する必要はなく、利用者の多い言語から優先すると運用しやすくなります。
Q. 口コミだけでもニーズは把握できますか?
口コミは非常に参考になりますが、投稿する利用者には偏りがあります。アンケート、問い合わせ、予約データなどと組み合わせることで、より幅広く把握できます。
Q. アンケートの回答数が少なくても意味はありますか?
少数でも具体的な改善のヒントが得られる場合があります。最初から大きな母数を求めるより、継続的に集めて傾向を見ることが重要です。
Q. AIで口コミ分析を自動化できますか?
分類や要約などをAIで支援することは可能です。ただし、分析結果をそのまま事実と判断せず、重要な内容については元データを確認する運用が必要です。
まとめ|宿泊客の声を「改善につながるデータ」に変える
外国人宿泊客のニーズを知るためには、施設側の想像だけで施策を決めるのではなく、実際の声や行動を見ることが重要です。
- アンケートで直接意見を聞く
- 口コミから満足・不満を把握する
- 問い合わせ履歴から不足情報を見つける
- 予約・Webデータから行動を見る
- スタッフの現場感覚も集める
- 複数のデータを組み合わせて改善する
こうした情報を継続的に蓄積すると、「外国人旅行者に何を提供すべきか」という漠然とした課題を、自施設で実際に改善できる具体的なテーマへ変えていくことができます。